夜型は、遺伝である
クロノタイプとは、朝型・夜型の傾向のことです。何時に眠くなり、何時に自然に目覚めるか。休日、予定がまったくない日に、体が選ぶ睡眠のタイミング。
このタイトルは、断言のかたちをしています。なので、どこまでが確かなのかを先に書きます。
わかっていること
クロノタイプには、生まれつきの成分がある。 これは、かなり確からしいことです。
根拠は大きく2つあります。
ひとつは双生児研究です。フィンランドで8753組の双生児を調べた研究では、朝型・夜型の個人差のうち 49.7%(95%信頼区間 46.4〜52.8)が遺伝で説明されると報告されました。オランダの双生児家族研究でも44〜47%、ブラジルの家族コホート(年齢と性別で調整後)でも38〜48%と、近い値が出ています。
ただし、これらは調査ごとに測っているものが少しずつ違います。フィンランドの49.7%は「広義の遺伝率」で、その内訳を見ると、親から子へまっすぐ伝わる成分(相加的遺伝)は11.7%にとどまり、信頼区間はゼロを含みます。「半分が遺伝」は、単純な親子の遺伝を意味していません。
もうひとつはゲノムワイドな関連研究です。69万7828人を解析した研究で、朝型・夜型に関連する遺伝子座が351か所見つかりました。体内時計の周期そのものに関わる時計遺伝子も、その中に含まれています。
分布は連続している。 人類は朝型と夜型の2種類に分かれているのではなく、極端な朝型から極端な夜型まで、なだらかな一山の分布として存在します。境界線はどこにもありません。
年齢で分布全体が動く。 思春期に入ると分布は夜型側へ寄り、10代後半から20代前半あたりで最も夜型になり、その後ゆっくり朝型側へ戻ります。中高生が朝に弱いのは、その年代に共通して起きている現象です。ただしこれらは、ある時点で年齢の違う人をまとめて調べた研究です。同じ人を追いかけたものではないので、「歳をとると朝型になる」のか「昔の世代がもともと朝型だった」のかは、厳密には切り分けられていません(著者自身がそう書いています)。
光が効く。 朝の光を浴びること、夜に強い光を浴びないこと。これらは体内時計の位相に影響します。環境要因も確かに働いている。
わかっていないこと・言い過ぎてはいけないこと
「遺伝である」という言葉は、しばしば「変えられない」と同じ意味で使われます。ここは正確ではありません。
遺伝の寄与があるということは、集団の中の個人差のうち一定割合を遺伝的な違いが説明する、という意味です。個人の運命が確定するという意味ではない。身長に遺伝の寄与があっても、栄養状態で変わるのと同じ構造です。
また、「夜型遺伝子を持っているかどうか」を調べれば自分のクロノタイプがわかる、という段階にはまだありません。上の69万人の研究で、判明している遺伝子多型そのものから説明できる割合は 13.7% です(英国のコホート単独での推定)。この差の大部分は、実は「見つかっていない遺伝子がある」からではありません。双生児研究の「約半分」は優性効果を含む広い定義の値で、そのうち親から子へまっすぐ伝わる成分(相加的遺伝)だけを取り出すと11.7%です。13.7%はこの相加的な効果を拾った値なので、両者はほぼ一致しています。
効果の大きさも、思ったほど劇的ではありません。同じ研究で、朝型寄りの遺伝子をもっとも多く持つ上位5%と下位5%のあいだで、活動量がいちばん少ない時間帯の中心(腕時計型の計測器で測った、眠っているとみられる時間帯の真ん中)は、平均 25.1分 しか違いませんでした(3時06分と3時32分)。数時間ではなく、数十分です。市販の遺伝子検査でクロノタイプを断定できると考えるべきではありません。
そして最も大事なこととして、クロノタイプは病名ではありません。夜型であることは診断ではなく、分布上の位置です。睡眠に関する困りごとが生活に強く支障をきたしている場合、それはクロノタイプの話とは別に、専門の医療機関で相談すべき領域です。当協会は診断も治療も行わず、参加者に診断書を求めることもありません。
では、なぜ「遺伝である」と書くのか
科学的な精度でいえば、「クロノタイプには相当程度の遺伝的基盤がある」と書くべきです。見出しでそう書かなかったのは、短くすると必ず精度が落ちるからで、落ちたぶんをこの本文で戻しています。
正確に言えば、こうです。朝型・夜型の個人差のうち、およそ半分は遺伝的な要因で説明される。ただしそれは集団のばらつきの話であって、ひとりの人の運命が半分決まっているという意味ではない。
遺伝であることが意味するのは、免責ではない
「遺伝だから仕方ない」と言いたいのではありません。それだと、結局は個人の話のままです。
分布に遺伝的な基盤があるということが本当に意味しているのは、こうです。
分布は、社会が何をしようと、なくならない。
早起きを推奨しても、道徳で責めても、分布の右側にいる人はいなくなりません。翌年も、次の世代も、同じ割合で生まれてきます。ならば、分布の存在を前提に設計されていない社会のほうが、設計として間違っている。
橋を設計するとき、通る人の体重をひとつの値だと仮定する技術者はいません。分布を見て、幅をとって設計する。始業時刻も、評価制度も、同じ話です。
参考文献
- Koskenvuo M, Hublin C, Partinen M, Heikkilä K, Kaprio J. “Heritability of diurnal type: a nationwide study of 8753 adult twin pairs.” Journal of Sleep Research. 2007;16(2):156–162. doi:10.1111/j.1365-2869.2007.00580.x
- Vink JM, Groot AS, Kerkhof GA, Boomsma DI. “Genetic analysis of morningness and eveningness.” Chronobiology International. 2001;18(5):809–822. doi:10.1081/cbi-100107516
- von Schantz M, Taporoski TP, Horimoto ARVR, et al. “Distribution and heritability of diurnal preference (chronotype) in a rural Brazilian family-based cohort, the Baependi study.” Scientific Reports. 2015;5:9214. doi:10.1038/srep09214
- Jones SE, Lane JM, Wood AR, et al. “Genome-wide association analyses of chronotype in 697,828 individuals provides insights into circadian rhythms.” Nature Communications. 2019;10:343. doi:10.1038/s41467-018-08259-7
- Roenneberg T, Kuehnle T, Pramstaller PP, et al. “A marker for the end of adolescence.” Current Biology. 2004;14(24):R1038–R1039. doi:10.1016/j.cub.2004.11.039
当協会は医療機関ではありません。本稿は睡眠に関する診断・治療についての助言ではなく、社会制度と設計についての主張です。 睡眠に関する困りごとが日常生活に支障をきたしている場合は、専門の医療機関にご相談ください。 当協会は参加者に診断を求めず、医療上の判断も行いません。